いやいやこれは昔の話ではなく、21世紀のお話です。
21世紀の日本のあるところに、お爺さんが住んでおりました。
お婆さんはもう亡くなっておりましたが、お爺さんは、娘の家族と一緒に毎日元気に楽しく暮らしておりました。
仕事をしていた頃は、体力づくりなど無縁の生活でしたが、引退してからは、近所のスポーツセンターに毎日欠かさず通ってトレーニングを重ね、メタボも解消いたしました。生まれ変わったようにスリムなスポーツマンになったお爺さんは、また、歌も大好きで、毎朝の日課はスクワットと呼吸法とカラオケの練習です。こんなに元気で陽気で、しかも誰にでも親切なお爺さんは、仲間にも恵まれて、毎日楽しく暮らしておりました。
ある日、お爺さんは鏡を見ながら、こう思いました。
「顔のシワがなけりゃ、もっと若く見えるのになあ」
お爺さんは、なんとかして、シワを取りたいと考えました。
そんなある日、新聞に○○美容整形外科の広告を見つけました。
「おっ、これこれ。美容整形でシワ取りしてもろたらどうやろ。ここをこうリフトアップしてもろて…」
お爺さんはその広告を切り抜いて、毎日眺め暮しながら思案しておりました。
お爺さんとて、美容整形が高額なのは百も承知しておりました。
年金生活のワシにはこたえる金額に違いない…
また、この歳で、しかも男で、美容整形を受ける不自然さも承知しておりました。
それで、なかなかそのクリニックに足を向けることができませんでした。
冗談まじりに、同居の娘達に言うと「なにを馬鹿な」と呆れられたりしましたので、なおさらお爺さんは悩んでしまいました。
ある日のことです。晴れ渡った気持ちのいい日曜でした。
お爺さんは、繁華街にあるショッピングセンターに買物をしに、地下鉄に乗って出かけていきました。
朝10時の開店を待って、一番に店に入り、さっさと買い物を済ませました。
朝一番はお客もほとんどおらず、買い物はあっさり終わってしまいました。
買い物袋をぶら下げて、エスカレーターに乗って下りようとしたところ、なんということでしょう。
真ん中あたりまで下りたところで、よろりとバランスを崩し、一気に下まで転げ落ちてしまったのです。
あまりのことにビックリしたお爺さん、何が起こったやら分からず、しばし呆然と転がっておりました。が、なにやら生温かいものが顔を伝うので、ふと手でぬぐってみると、なんと顔一面に鮮血がほとばしっているではありませんか!
あたりを見回しても、お客はおろか、店員の姿もありません。
お爺さんは立ちあがって、そそくさと店をあとにしました。
一刻も早く、その場を立ち去りたかったのです。
ヨボヨボしてエスカレーターから転げ落ちたなど、恥ずかしくてプライドが許さなかったのでしょう。
外に出ると、流れる血をハンカチで押さえながら、病院を探しました。
いつもなら、開いている病院がすぐ見つかるはずの繁華街ですが、あいにく今日は日曜日。
ああ、開いているところはないか……
「そうだ、あの美容外科は日曜でも開いてた!」
お爺さんは毎日見ていた広告で、場所もすっかり覚えてしまっていました。
しかも、うまい具合にすぐ近くです。お爺さんは、いそいでクリニックに駆け込みました。
美麗な美容整形の受付に、どうみても不似合いな血だらけの老人が駆け込んできたのです。係の女性の驚きは、いかばかりだったでしょう。
「エスカレーターから落ちて怪我をした。手当してくれんか!?」
お爺さんは藁をもつかむ思いで頼みましたが、女性は不審な老人を見ながら型どおりにこう答えました。
「うちは美容整形なので、申し訳ありませんが、怪我の手当はちょっと…」
お爺さんはひるみません。
「あんた、年寄りがこんなひどい怪我して来てんのに、治療できんって、そらないやろ! 美容でもなんでも、外科は外科やろが!」
受付でワアワア言い合っているのを、院長先生が聞きつけました。
先生は出て来て、確かに、そりゃあまりな話だと思い、
「普通の外科じゃないので、どこまでできるか分かりませんが、よろしい、治療しましょう」ということにあいなりました。
お爺さんの顔の出血は、両方のこめかみが、数センチにわたってぱっくり切れているのが原因と分かりました。
院長先生は、絹のような細い細い糸を使って、傷口を丁寧に縫い合わせていきました。手術が終わって、先生はこう言いました。
「ついでにリフトアップしときましたから」
「(゚◇゚)?……(≧▽≦)」
支払いは、もちろん後期高齢者の治療範囲です。
顔面にガーゼ貼り付けてうちに戻ったお爺さん、
家族の問いには「うん、ちょっと転んでな」とだけ答えたそうな。
よく転ぶので、家族はとくに不審にも思いませんでした。
で、抜糸が終わってから、お爺さん、すべてを家族に打ち明けました。
「どや、シワなくなってるやろ?」
家族は開いた口がふさがらなかったということでございます…
誰の話って?
実家の父ですわよ。
あ、レイキの落ちを書く余裕がなくなっちゃた。
続きは次回に!
to be continued...
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